「この世に絶対はない」という神話
色々な人と接していると、かたくなに「この世に絶対はないんですよ!」って言って憚らない人に出会う事があります。
これ、あれですね。 ちょこちょこ「そう言う人」に出会うという事は、かなり多くの人が「この世に絶対はない」っていう何か神話めいた理論を信じてる気がしますね。
そのあたりの主張って表現的にカッコいいからそう言ってるのか、ホントにそう思ってるのかわからんかったりします。
確かに「この世に絶対はない」って言う主張はカッコいい気がします。
「サッカーの試合に絶対はないんだ!!」
「絶対安全なセキュリティなんてないぞ!」
「『絶対儲かります』なんてありえない」
「『俺たちの恋愛は絶対大丈夫』って思ってた」
「絶対解決しない課題なんてないんだよ」
何か多分、そうした「絶対大丈夫だ」みたいに言う人に対して諭すように「あのなぁ、絶対なんてないんだよ」って言いたいんだと思う訳です。
そんで、確かに安易に「絶対」という言葉を使うのは危険で、思わぬ事態や、思わぬ奇跡が起こって「絶対」は打ち破られたりする訳です。
だから「絶対」という言葉を肯定するのは短絡的で「絶対はないんだ」と考えることが思慮深いように感じるんでしょうね。
なるほど、そう考えると「この世に絶対はない」っていう言葉はカッコ良い気がします。
平家物語でも諸行無常、盛者必衰として、この世は移り変わっていくものとして描かれ、 物理学や自然科学の世界でも絶対と思われていた理論が次々と打ち破られていきます。
どうやら本当にこの世には「絶対」なんてないんじゃないか。そんな気持ちにみんな同調しちゃう。
作家先生やアーティストやアスリートや色んな人が「絶対なんてないんです」って言葉をカッコ良く使う。確かにその世界では、最後まであきらめずに「絶対」なんて言葉で自分を制約しちゃダメだみたいな考え方は正しかったりします。
そしていつしか人々は 「この世に絶対はない」という定理が「絶対」正しいと思い込むようになった訳です。
なるほどなぁって思いましたよ。
でも、間違ってるんです。
「絶対はない」という言葉は、限定的な世界でしか通用しません。なんでみんな、そうした幾つかの事例を見ただけで「この世に絶対はない」みたいに「この世の全て」に適用枠を広げようとしちゃうんだろ。めちゃくちゃ飛躍だよね。
例えば、私はどんなに怒りが爆発しても髪の毛が金色に逆立ってオーラをまとい星を破壊できるほどのエネルギー弾を撃てるようにはなりません。「絶対に」です。
ほら「絶対できない事」はありますよね?
これすら「いや、この宇宙ではどんなに荒唐無稽な事が起こるか分からない、今日までそれが起こらなかったとしても明日起こるかもしれない」と嘯きますか?そこまで言い切るのであれば確かに「絶対」はないでしょう。隣に住んでいる人は実は身長が100mあるかもしれませんし、明日からあなたは5人に増えているかもしれません。確かにこの宇宙で起こる事の全てを人類が理解出来ている訳ではありませんからね。何が起こるかは確かに分からない。私も突然惑星を破壊するくらいの力を手にするかもしれません。
でも、限りなく可能性がゼロに近いものですら「全てに絶対はないんだから、それだって起こるかもしれない」と主張する事になんの意味があるでしょうか?
私は、一般生活の中で「それは絶対に起こる事はない」という言葉を使っても良いと考えています。「絶対に起こらない事はある」という当たり前の共通認識をまず持ちたいと思っています。
「サッカーの試合に絶対はないんだ!」確かにそう言いたくなる気持ちはわかります。でも残り時間5秒で30点差で負けていたとしたら、私は「絶対に逆転は不可能」と言って差し支えないと考えています。この差を逆転させるには「1秒で6点を取るという」物理の壁を越えた現象が必要だからです。
もちろんとんでもない出来事があって試合が無効になったり、相手チームが反則負けになったりする事はあるかもしれません。だから「うちの負けが決まったわけじゃない」は正解ですが「残り5秒で30点だって取れる!だってこの世に絶対はないんだから」という主張はすべきではないと思うのです。
この世を限定的に捉えちゃダメだ、柔軟に捉えなければという気持ちが強くなりすぎて「絶対はない」という論理をいついかなる時も「絶対化」しちゃダメなんですよ。
「この世に絶対はないんです!!」と幼稚に主張する人には、即座に「いや、絶対なんて幾らでもあるよ」と答える事にしています。「絶対はない」と主張する方が思慮深いなんてとんでもない話で「絶対」の「絶対性」に拘って限定的な思考になっちゃってるのがむしろ滑稽です。
「絶対がない」なんて事を「絶対に言える」とは限らない。というくらいの気持ちの余裕をもって欲しいものです。
え、そんなの当たり前じゃないかって?
いやいやいるんですよたまに。「この世に絶対は幾らでもあるよ」って言っても「そんな事はない。この世に絶対はないんです!!」と言い張って憚らない人が。